新型コロナウイルスワクチンその3
・健康な子どもへのワクチン接種
接種によるメリット(感染拡大予防等)とデメリット(副反応 等)を本人と養育者が十分理解し、接種前・中・後にきめ細やかな対応が必要です。
日本小児科学会では、12歳以上の健康な子どもへのワクチン接種は意義があると考えています。新型コロナウイルス感染予防対策の影響で子どもたちの生活は様々な制限を受け、子どもたちの心身の健康に大きな影響を与え続けています。小児患者の多くは軽症ですが、まれながら重症化することがありますし、同居する高齢者の方がいる場合には感染を広げる可能性もあるからです。
参考サイト 「新型コロナワクチン~子どもならびに子どもに接する成人への接種に対する考え方~」に関するQ&A
うちの子ども(12歳以上)は健康ですが、ワクチンを受ける意義はあるのでしょうか。
すでに書いたように、国外での小児を対象としたワクチン接種経験等では、接種後の発熱や接種部位の疼痛等の副反応出現頻度が比較的高いことが報告されています。そこで、子どもへのワクチン接種は、まず、子どもに接する成人への接種を充実したうえで慎重に実施されることが望ましく、接種にあたってはメリットとデメリットを本人と養育者が十分に理解していること、接種前・中・後におけるきめ細かな対応を行うことが前提になります。
参考サイト 「新型コロナワクチン~子どもならびに子どもに接する成人への接種に対する考え方~」に関するQ&A
新型コロナウイルスワクチンその2
・重篤な基礎疾患のある子どもへの接種
ワクチン接種により新型コロナウイルス感染症の重症化を防ぐことが期待されます。
国外では神経疾患、慢性呼吸器疾患、免疫不全症を有する子どもの感染例で重症化が報告されています。これをうけて、国内でも基礎疾患のある子どもの場合、ワクチン接種によって重症化を防ぐことが期待されると考えています。
重症化リスクが高いといわれる基礎疾患には次のようなものがあります。神経疾患、脳性麻痺、慢性肺疾患、慢性心疾患、ダウン症候群をはじめとした染色体異常症、悪性腫瘍や移植などによる免疫不全状態、高度肥満など
参考サイト 「新型コロナワクチン~子どもならびに子どもに接する成人への接種に対する考え方~」に関するQ&A
うちの子ども(12歳以上)には持病があって定期的に通院しています。うちの子ども(12歳以上)の持病は新型コロナワクチンの優先接種対象の「基礎疾患」に該当するでしょうか。
ただし、思春期の子どもや若年成人では、接種部位の疼痛出現頻度が約90%と高く、特に2回目接種後に発熱、全身倦怠感、頭痛等の全身反応が起こる頻度が高いようです。基礎疾患を有する子どもへのワクチン接種については、本人の健康状況をよく把握している主治医と養育者との間で十分な接種前の説明を行い、接種後の体調管理等を事前に相談することが望ましいとしています。
新型コロナウイルスワクチンについて
基本的な考え方
・子どもを新型コロナウイルス感染から守るためには、周囲の成人(子どもに関わる業務従事者等)への新型コロナワクチン(以下、ワクチン)接種が重要です。
これは、子どもへの感染源の多くは周りにいる成人だからです。
つまり、コロナウイルス感染で重症化するおそれのある基礎疾患をもつ子どもに関わる業務従事者はもちろん、健康な子供に関わる業務従事者も、職種・勤務形態を問わずワクチンを接種することが重要との考えを示しています。
便秘について その2
さて、今回は小児の便秘の2回目です。
便秘の起きやすい時期と、排便・便秘のメカニズム、治療の原則について書きます。
まず便秘の起きやすい時期からです。
生後すぐの新生児期からの便秘
このような時期から起きるものは、むしろ外科的な治療が必要な重篤な疾患である可能性が高いです。
乳児期における食事の移行期
この時期の赤ちゃんは、まだ自分の意志でおしりを緩めて、いきんで排便するという一連の協調した運動ができません。また、離乳食により便が次第に“形”として固まってくるため、自力で排便しにくくなることがあります。なので、この時期は単純に便を柔らかくすることで便秘が改善することが多いようです。
幼児におけるトイレットトレーニング期
この時期になるとは、自分の意志でおしりを緩めて、いきんで排便するというトイレトレーニングが出来るようになってきています。しかし、逆に言うと、自分の意志で排便を我慢することもできるようになっています。このため、何らかの原因で排便が苦痛であるという経験をすると、それ以降に“うんちをするのが怖い”という考えに支配されるようになってしまいます。このような場合は、“うんちをするのが怖い”という思考を変えてあげるようにしないといけません。
学童における通学の開始期
この時期は、幼児期から大きくライフスタイルが変化します。排泄に関して言うと、“自由にトイレに行けない”ような生活に変わっていくわけです。このため、朝の排便の時間が十分とれない、便意を催しても、授業中は我慢しないといけない、などの問題が出てきます。また男の子の場合、排便への羞恥心などもでてくるようになります。この時期には個々の問題について、解決をはかる必要が出てきます。
ここで排便のメカニズムについて説明します。
大腸で次第に形ができた便が直腸をおしひろげると、脳に便がおりてきたという情報が伝わります。そうすると、排便が可能になる時期までは、自分で外肛門括約筋をしめて便を我慢します。そのあとトイレに行くと、括約筋を緩めて、おなかに力を入れて排便します。これとは別に食事をした時は、胃の中に食事が入ったという刺激で胃結腸反射というものが起きて、腸がぐるぐる動いて排便につながります。
便秘の子の場合、慢性的に直腸に便がたまっており、便意を感じにくくなっています。便秘が進むと、食欲も落ちてくるようになり、胃結腸反射による腸のぜん動運動も落ちてきます。そうして便秘が成立してしまいます。
また、一旦便秘になると、
① 排便時に痛い→②排便我慢→③便塞栓→④水分が抜けて硬くなる
この①~④の悪循環におちいってしまいます。また、この時は体の便意を感じるセンサーや反射も鈍っていくので、さらに便秘はひどくなっていきます。
便秘の治療においては、まず硬くつまっている便(便塞栓)を除去して便が通りやすくなるようにしなければいけません。便秘の悪循環を断つためにもこれは重要なことです。ただし、一旦固くなってたまっている便を内服薬で柔らかくすることは困難です。そこでまず、浣腸などで便塞栓を除去することが最初に必要なことです。
そのあとから、規則正しい生活習慣、バランスの取れた食習慣、排便習慣の確立を身に着けるようにしていきます。内服薬はこの習慣が確立するまでの補助です。内服薬だけで生活改善なく便秘が治っていくことは困難なのです。
今日はここまで。お子さんやお母さんの気持ちや、治療については次回書きます。
便秘について その1
今日から新しいテーマでブログの更新をしていきたいと思います。
新しいテーマは“便秘”です。
最初に“便秘”という状態がどのくらいのお子さんに起きているのかということから始めましょう。ある研究によれば3~8歳の3600人の小児のうち、約20%が、便秘の状態であったことがわかりました。
もしかすると、“便が何日も出ない”という状態が、これほど多くのお子さんに起きているのかと疑問に思われるかもしれません。でも、実は便秘というのは“便が出ない”というだけではないのです。
では、“便秘”とはどのような状態をいうのか整理してみましょう。
医学的には便が滞った状態(排便回数、量が減る)と、便が出にくい(排便に努力、苦痛を要する)または、いきんでも出ない状態の両方を便秘といいます。
したがって、次のような状態はいずれも便秘を疑う症状なのです。
① 便が何日も出ない(わかりやすいですね)
② 排便時の痛み
③ 切れ痔(出血、傷から出るような色の血が付着)
④ 排便我慢(便をしたそうなのに、出そうとしない)
⑤ トイレが詰まりそうなほどの大きな便
⑥ 便失禁(便汁の漏出)
⑦ 直腸に便を触れる
⑧ 繰り返す腹痛(原因不明の腹痛では便秘が原因として最も多い)
⑨ げっぷ、口臭
⑥の便失禁についてもう少し説明します。
非常に強い便秘の場合、体は硬い便を何とか押し出そうとして、腸液の分泌が盛んになります。腸液が潤滑油のように働き、便を排出しようとするわけです。しかし、便秘が非常に強いと、便は出ずに便の周囲を通った腸液がじわじわと肛門のから流れだしてくるのです。つまり意識していないのにパンツが少量の便や便汁で汚れるのです。
いかがでしょうか?
毎日排便があっても、実は“便秘”かも知れないことがお分かりいただけたでしょうか?。これを機会に一度お子さんの排便習慣、便の状態をチェックしてみてください。
次は、便秘の起きやすい時期や便秘に悩むお子さん・お母さんの気持ちについて書こうと思います。
アトピー性皮膚炎をどう予防し、どう治療するか
さて、今日は食物アレルギー(食品の感作)が起きる場所となる、アトピー性皮膚炎は予防できないか?、起きてしまったアトピー性皮膚炎とはどう付き合うかという話です。
これまでの研究で、出生直後の赤ちゃんに毎日保湿剤などを塗るグループと、このような介入をしないグループに分けて、アトピー性皮膚炎の発症が予防できるがどうかが比較検討されています。
それによると、早期からの保湿剤の使用はアトピー性皮膚炎を予防するという結果と、予防効果はないという結果が両方存在します。はっきりした結論は出ていないのです。
どうやら一般の赤ちゃんまで含めると、全員になんとなく保湿剤を塗るのはあまり意味がなさそうで、アトピー性皮膚炎の家族歴がはっきりしているハイリスクの赤ちゃんには、このような介入は意味があるかもしれません。
次に、発症してしまったアトピー性皮膚炎とどう付き合うかです。
小児のアトピー性皮膚炎では、一見湿疹がないような場所にも組織レベル(顕微鏡レベル)でみると、炎症が隠れていることが多いのです。そういう観点からは、明らかな皮膚炎の周囲までふくめて、一見健康に見える皮膚にも軟膏治療を行う意味がありそうです。
そして一旦皮膚の状態がよくなったら、再度湿疹が出たら軟膏を塗る(リアクティブ)というやり方もありますが、実は湿疹がでていなくても、何日かおきに軟膏を塗る(プロアクティブ)というやり方の方が、皮膚の状態のコントロールはいいのです。
当然、皮膚の状態がよい方が、その後にダニ抗原に対するアレルギーの感作は少ないという結果も出ています。
以上をまとめると、
アトピーのハイリスクの赤ちゃんには、生後早期からの保湿はアトピー性皮膚炎発症予防の意味があるかも。
一旦発症してしまったアトピー性皮膚炎には、湿疹の周囲まで含めて広めに軟膏治療を行った方がよい。
また、皮膚の状態がよくなっても、湿疹が再発する前から何日かおきに軟膏を塗った方がコントロールはよい。
ということになります。
食物アレルギーの予防について ミルクその他の食品
さて、食物アレルギーの発症予防について、前回の続きです。
前2回の内容のおさらいをすると、
食品を除去(食べずに摂取時期を遅らせる)することが、食物アレルギーの発症にかかわる要因であること、卵であれば具体的な摂取開始の時期は生後5~6か月頃から、摂取する内容は、卵黄は自由に、卵白なら米粒1個程度から食べ出せばよいでしょうということを書きました。
では、牛乳(ミルク)アレルギーの発症予防についてはどうでしょう?
なんとなく今までの内容から想像がつくと思いますが、ミルクに関しても少量の早期摂取がミルクアレルギーを予防することがわかっています。
まず生後1か月から3か月まで、母乳栄養に加え普通ミルクを毎日、必ず少量摂取するグループと、母乳だけ摂取するか、必要なら母乳以外に大豆乳を摂取する(ミルクは使用しないということですね)グループに分けます。生後3か月以降は、どちらのグループも母乳と必要によりミルクを摂取するようにして観察したところ、毎日ミルク摂取を行ったグループではミルクアレルギーの発症がかなり少なかったのです。
この際、アレルギーが予防できたミルク量は10ml程度(毎日)であったこともわかっています。
この結果は、母乳栄養を否定するものではありません。
食物アレルギーの発症予防という観点からは、ミルクの早期摂取の有用性が示されたということです。ちなみに、普通ミルクを加水分解した低アレルギーミルク(アレルギー用ミルク)はミルクアレルギーの発症予防には関係しないことがわかっています。これらのことから、離乳食では普通ミルクの摂取を推奨するようになっています。
その他の食品についても、家族がよく食べるアレルゲン食品は早期摂取する方がよいのではないかとのことです。これは家族がよく食べる食品では、家庭環境のホコリの中に食物抗原がふえてしまうからで、乳児湿疹、アトピー性皮膚炎では経皮感作から食物アレルギーを発症することにつながるからです。
今日はここまでです。
次は、もう一つのリスクの乳児湿疹やアトピー性皮膚炎とどう付き合うかについて書きます。
食物アレルギーの予防について 食品の早期摂取は危険?安全?
前回のブログで、乳児期早期から少量の食品の摂取を始めた方が、食物アレルギーを起こしにくいという記事を書きました。
今回はその根拠と、実際の離乳食での食べさせ方について書きます。
さて、食品をいつから食べさせるのかという考え方の歴史的な変遷ですが・・、
2000年のアメリカ小児科学会では、アトピー性皮膚炎があったり家族歴がはっきりしているアレルギーのハイリスク児の場合、食物アレルギーが心配なら、摂取の開始は遅らせましょうという考え方を推奨していました。
ところが、2015年にイギリスで行われたピーナツアレルギーの発症予防に関する検討で、アトピー性皮膚炎や卵アレルギーのある乳児でも、早く食べ出した方がアレルギーを予防できるという研究結果が発表されました。心配して食べないよりも、積極的に食べた方がいいですよという、アメリカの推奨とは正反対の結果ですね。
ただしこの研究の中で、アレルギーのリスクが比較的高い乳児では、最初の摂取でアレルギー症状が出る場合があることもわかりました。これを受けて、その後、食べ始める量が多いとアレルギーを起こすのではないか?もっと少ない量で食べたら予防できるのではないのか?という検討が行われました。
日本で行われたアトピーの乳児を対象にした検討で、生後6か月からほんの少しの加熱卵粉末を摂取し始め、次第に増量して摂取を続けた場合、摂取をしない場合に比べて、卵アレルギーの発症率が80%も低かったという結果がでました。
これは少量を食べ続けて、食物アレルギーを予防することが出来た世界初の研究です。
これを受けて、日本小児アレルギー学会からも、2017年6月にまず医療関係者向けに鶏卵アレルギーの発症予防に関する提言が発表されました。その後、その内容を一般の方へ説明する解説が10月に発表されています
69f6d7cc633708191f30fdad9b699c96.pdf (jspaci.jp)
その要旨は、アトピー性皮膚炎があったら、つるつるに治して、生後6か月から卵を食べ始めましょうということになります。
2019年3月の厚労省、授乳離乳の支援ガイドにも生後5~6か月から卵黄を食べ始めるように記載されるようになりましたが、これには細かい食べさせ方は書いてありません。
そこで、離乳食での開始のやり方を説明します。
日本小児アレルギー学会では固ゆでの卵黄1/3個(全卵0.2g換算)から、海外の提言では全卵をティースプーン1/4杯程度から食べることを推奨しています。
今回の講演では、卵黄は自由に食べていいでしょう、卵白については固ゆで米粒1個大位から1粒ずつ増やせばよい(5~10粒で0.2g)のでは?というアドバイスがありました。
わたしも日常の診療の場面では、「卵白はまだ怖くて試せていません」という声をよく聞く場合があります。これからは、このような具体的な例を挙げて説明すれば、保護者の不安を軽くし、一歩先へ踏み出していただけるサポートが出来そうだと感じました。
今回はここまでです。
次回はミルクその他の食品について書きます。
食物アレルギーの予防について
乳児期の赤ちゃんの心配事として、よくお聞きすることに食物アレルギーがあります。
例えば、離乳食を食べる前に食物アレルギーの検査は必要でしょうか?
乳児湿疹があるので、卵などを食べるのは遅らせた方がよいのでしょうか?などなど。
今回は、先日の小児科学会での食物アレルギーの予防に関する講演内容を自分なりにまとめて、
食物アレルギーがあるとアトピー性皮膚炎になるの?
アトピー性皮膚炎があると食物アレルギーをおこしやすいのか?
このような疑問に答える記事を書きたいと思います。
最初に結論を書いてしまいますが、食物アレルギーのハイリスク因子はアトピー皮膚炎や乳児湿疹です。
炎症のある皮膚には環境中のアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)がくっつきます。体はそれを敵として認識することでアレルギーが発症してしまうのです。この場合のアレルゲンは、一般に思い浮かべるような環境中のホコリ(ダニアレルゲン)だけではありません。実は家族が生活する環境には、調理や食事によって発生した食物アレルゲンが存在します。でも、食物を乳児期早期(具体的な時期については後で述べます)から制限せず摂取していると、体はその食品を敵とは認識しません。逆に除去していると、炎症のある皮膚で起きた食物を敵と考える反応がそのまま成立して、食物アレルギーが起きてしまいます。
つまり食物アレルギーの発症につながる要因は
① きちんと治療されていないアトピー性皮膚炎、乳児湿疹があること
② 赤ちゃんが食物を除去している(食べるのを遅らせている)こと
③ 環境中にアレルゲンがあること
ということになります。
逆に言うと食物アレルギーを予防するには
① アトピー性皮膚炎の家族歴があれば保湿を行い、アトピー性皮膚炎を予防する。
もうすでにアトピー性皮膚炎があるなら、積極的に治療してコントロールする。
② 4~6か月(乳児期早期)からの食物摂取の開始
③ 赤ちゃんが食べないような食物(ナッツ類など)は思い切って除去する。
もしくは掃除などの環境整備を頻回に行う。
ということになりそうです。
今回はここまでです。
次回、早いうちに卵、牛乳などの食物を摂取開始するタイミングについて書きます。
マスクを300枚寄贈頂きました
先日、日野町ライオンズクラブの方が医院までお越しになり、マスクを300枚寄贈してくださいました。日頃の診療に対する感謝のお手紙が添えてありました。一時よりは手に入りやすくなったものの、いまだにマスクの価格は高騰しています。そんな中での思いもかけないプレゼントに職員一同、感謝の気持ちでいっぱいです。これからも、がんばります!